―7―
月明かりが二つの人影を写し出す。
大神とレニだ。
二人は、何をするでもなく舞い落ちる雪を見つめていた。
だが、想い人と二人だけで過ごす時間というのは幸福な時間のようで、大神とレニの表情はとても幸せそうだった。
しばらくして、大神は視線をレニに向けた。
そして、おもむろに上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「ハッピーバースデイ、レニ。君に似合うかな、と思って買ったんだ。安物だけど、使ってくれるかい?」
「そんなこと関係ないよ。だって隊長が、僕のために買ってくれたんでしょ?……すごく嬉しい」
レニの今の言葉に嘘はない。
大神が自分のために用意してくれたプレゼントなのだ。嬉しくないはずがない。
「屋烏の愛」とはよく言ったものだ。
「そうか、よかった……」
大神は安堵の表情を浮かべた。
その顔を見たレニは、少々不満だった。
以前、レニが大神に食べてもらおうと練習して失敗した卵焼きを、大神は「美味しい」と残さず平らげた。
『美味しいはずがない』と言ったレニに対し、大神は『確かに他の人が食べたら美味しくないかもしれない。でも、レニが俺のために作ってくれたから美味しかったんだよ』と笑顔で答えた。
そして、最後にこう付け加えた。
『レニが俺のために何かしてくれることが嬉しいんだ』と。
レニは『僕だって同じ』と返した。
なのに、大神はプレゼントが安物だとかそんなことを気にしていた。
それが、レニは気にくわなかった。
(でも、それは僕も同じなんだ)
そう考えていたレニ自身、大神に渡すプレゼントに自信がなかった。
こんなものをもらって迷惑じゃないだろうか?と、何度も悩んだ。
(それもこれも全部、隊長のことが好きだから……かな?)
意を決してレニは、大神にそのプレゼントを手渡すことにした。
大神のことが大好きだという気持ちとともに。
「隊長、今日はクリスマスだから僕もプレゼントを用意したんだ」
そう言ってレニは、ポケットからプレゼントを……
取り出すことなくすぐに別のポケットに手を入れた。
そして、全てのポケットを探した後、レニは申し訳なさそうな顔をして大神を見た。
「……どうしよう、何処かに落としてきたみたいだ」
「……じゃあ、代わりにレニのキスを……プレゼントしてくれるかい?」
瞬間、レニの顔が可哀想なくらい真っ赤になる。
しかし、大神は容赦なくレニに返事を求める。
「……返事は?」
「………………………………………ぃぃょ」
大神はすごくいい笑顔を浮かべた。
その頬にレニはそっと口付けた。
「……改めて誕生日おめでとう、レニ」
「……ありがとう、隊長」
気恥ずかしそうに笑いあう二人。
再び二人の影が重なる。
今日は特別な日、愛があふれそうな日。
二人のことは、夜空に浮かぶ月だけが知っている。
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