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 月明かりが二つの人影を写し出す。

 大神とレニだ。

 二人は、何をするでもなく舞い落ちる雪を見つめていた。

 だが、想い人と二人だけで過ごす時間というのは幸福な時間のようで、大神とレニの表情はとても幸せそうだった。

 しばらくして、大神は視線をレニに向けた。

 そして、おもむろに上着のポケットから小さな箱を取り出した。

 「ハッピーバースデイ、レニ。君に似合うかな、と思って買ったんだ。安物だけど、使ってくれるかい?」

 「そんなこと関係ないよ。だって隊長が、僕のために買ってくれたんでしょ?……すごく嬉しい」

 レニの今の言葉に嘘はない。

 大神が自分のために用意してくれたプレゼントなのだ。嬉しくないはずがない。

 「屋烏の愛」とはよく言ったものだ。

 「そうか、よかった……」

 大神は安堵の表情を浮かべた。

 その顔を見たレニは、少々不満だった。

 以前、レニが大神に食べてもらおうと練習して失敗した卵焼きを、大神は「美味しい」と残さず平らげた。

 『美味しいはずがない』と言ったレニに対し、大神は『確かに他の人が食べたら美味しくないかもしれない。でも、レニが俺のために作ってくれたから美味しかったんだよ』と笑顔で答えた。

 そして、最後にこう付け加えた。

 『レニが俺のために何かしてくれることが嬉しいんだ』と。

 レニは『僕だって同じ』と返した。

 なのに、大神はプレゼントが安物だとかそんなことを気にしていた。

 それが、レニは気にくわなかった。

(でも、それは僕も同じなんだ)

 そう考えていたレニ自身、大神に渡すプレゼントに自信がなかった。

 こんなものをもらって迷惑じゃないだろうか?と、何度も悩んだ。

 (それもこれも全部、隊長のことが好きだから……かな?)

 意を決してレニは、大神にそのプレゼントを手渡すことにした。

 大神のことが大好きだという気持ちとともに。

 「隊長、今日はクリスマスだから僕もプレゼントを用意したんだ」

 そう言ってレニは、ポケットからプレゼントを……

 取り出すことなくすぐに別のポケットに手を入れた。

 そして、全てのポケットを探した後、レニは申し訳なさそうな顔をして大神を見た。

 「……どうしよう、何処かに落としてきたみたいだ」

 「……じゃあ、代わりにレニのキスを……プレゼントしてくれるかい?」

 瞬間、レニの顔が可哀想なくらい真っ赤になる。

 しかし、大神は容赦なくレニに返事を求める。

 「……返事は?」

 「………………………………………ぃぃょ」

 大神はすごくいい笑顔を浮かべた。

 その頬にレニはそっと口付けた。

 「……改めて誕生日おめでとう、レニ」

 「……ありがとう、隊長」

 気恥ずかしそうに笑いあう二人。

 再び二人の影が重なる。

 今日は特別な日、愛があふれそうな日。

 二人のことは、夜空に浮かぶ月だけが知っている。




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