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 ケーキの蝋燭に火が灯され、みんながレニを祝うバースデイソングを歌い出した。

 その輪の中に大神も加わる。

 歌が終わると同時に、レニが蝋燭の火を吹き消し盛大な拍手と祝福の言葉が贈られる。

 「「「「「「「「「「「「誕生日おめでとう、レニ」」」」」」」」」」」

 「……ありがとう、みんな」

 『ジャラ〜ン!』

 聞きなれたギターの音色が響く。

 皆が振り向くと、やはりハイセ(以下略)が入口にもたれかかって気障なポーズを決めていた。

 「メリークリスマスえーんどクリスマス公演お疲れ様!」

 「加山隊長」「加山さん戻ってらしたんですか」「お久しぶりです」「いつ帰ってきたの?」

 皆が久方ぶりに出会うその来訪者を温かく迎える。

 「幸せだなァ〜、みんなに再会を祝ってもらえるなんて……」

 「ちゃうちゃう、祝ってんのは加山はんやのうてレニとクリスマスや」

 

 紅蘭の言葉に、会場から笑いが起こる。

 しかし、男・加山雄一はこの程度ではへこたれない。

 「仰る通りです。本日は12月24日、レニさんお誕生日おめでとうございます」

 加山はレニに近づくと、何処からか可愛らしく包装された包みを取り出した。

 「これが織姫さんからのプレゼント、これは巴里のみんなから、こっちは紐育のみんなからです」

 手品のように次々と出てくるプレゼントを、レニはひとつひとつ丁寧に受け取っていく。

 「そして、これは私から……。私が店主を務めるROMANDOにて売り出し中の『日本名物スケコマシ人形』です」

 そう言って最後にレニに手渡されたぬいぐるみは、何処か大神に対する悪意を感じさせる造形だった。

 ふと、加山の視線がほんの一瞬だけ「スケコマシ」の上着の隙間に注がれた。

 レニもつられてそこに視線を向けると、そこにはメモのような物が挟まっていた。

 レニが加山に視線をもどすと、ウインクをしてきた。<p>

 「ありがとう、加山隊長」

 そう言うとレニは、メモの中身を確認すべくその場を離れた。

 「さて、12月24日にはもうひとつイベントがありますよね。そう、クリスマス!」

 馬鹿に明るい若大将といった感じの加山は、ノリノリで喋り続けている。<p>それを横目に見ながらレニはメモに目を通した。

 そこには、『もうすぐ照明を落としてみんなの注意を俺に向けさせます。その隙に大神と抜け出してやってください』と書かれていた。

 なるほど、確かに今みんなの注目は加山の方に向けられ始めている。

 大神の方を見やると既に加山の提案を知っているのか、うなずき返してきた。

 しかし、本当に抜け出してしまってよいものなのか、そう思ったレニは大神と相談することにした。

 「隊長、こんなメモを加山隊長からもらったんだけど……」

 「……任せておけとはこういうことか」

 「……どうするの、隊長?」

 「そうだな、加山の厚意を無碍にするのも……」

 大神はそこで言い淀んだ。これでは、加山の顔を立てるためにパーティーを抜け出すことになる、と考えたからだ。

 (そうじゃないだろう、大神一郎。俺は、自分自身の意志でレニと二人きりになりたいんだ)

 「正直に言うよ。みんなには悪いけど、俺はレニと二人きりになりたい。レニはどうだい?」

 「……僕も、同じ気持ちだよ」

 大神のその言葉が素直に嬉しくて、でも恥ずかしくて、レニは顔をうつむけながら小さな声で答えるのが精一杯だった。

 と、同時に部屋の照明が落ちた。

 



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