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 一夜限りの特別な舞台は、観客の鳴り止まぬ拍手の中でその幕を閉じた。

 家路に着く観客は一人の例外もなく、満足そうな笑みを浮かべていた。

 その興奮冷めやらぬ花組は、舞台の後片付けもそこそこに最早恒例となったクリスマス公演の打ち上げ兼レニの誕生パーティー兼クリスマスパーティーの準備を始めた。

 あっという間にテーブルには料理が敷き詰められ、コップには飲み物が注がれる。

 会場には、帝劇スタッフだけでなくゲストとして神崎すみれに米田元支配人、元帝劇三人娘も集まってきた。

 残念ながら、織姫は来ることはかなわなかったが、テーブルのまわりも徐々に賑わってきた。

 「さぁ、宴会だ!大宴会だぁ!!」

 「「「「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」」」」」

 いつものように米田の一言でパーティーが始まった。

 会場にいる全員が、今日の舞台のことを語り合い、今日に至るまでの努力を讃えあう。

 その顔には充足感に満ちた笑顔が浮かんでいた。

 その最中にありながら、大神だけは何処か残念そうな顔をしていた。

 何を隠そう大神とレニは、パーティーをこっそり抜け出して残すところあと僅かとなったレニの誕生日を二人だけで祝う計画を立てていたのだが、レニの傍には常にアイリスがいるし、みんながとても楽しそうにお喋りしたり料理に舌鼓を打ったり酒を飲んだり(約1名)しているので、なんとも抜けだし辛い空気になっていた。

 レニと二人きりになりたいのも事実だが、みんなと過ごす楽しいひとときを壊したくないのもまた事実。

 大神は何とかして雰囲気を壊さぬようこっそりレニと抜け出すことはできないかと一瞬思案したが、すぐに中断した。

 「隊長……」

 「レニ、いい舞台だったよ。お疲れ様」

 「ありがとう、隊長」

 レニがやってきたからである。

 「隊長、これ飲む?」

 「ありがとう、頂くよ」

 レニから受け取ったジュースを飲みながら、大神がポツリと呟いた。

 「何だか抜け出し辛くなってしまったな……」

 「うん……」

 その呟きにレニが答える。

  「ちょっと残念だけど……、こういう風にみんなと過ごす時間も大切にしたい」

 「……そうだな」

 「レニ〜、お誕生日のケーキの用意が出来たよ〜!」

 「うん、今行くよ」

 アイリスに誘われてレニが行ってしまったので、大神はレニとのデートを渋々ながら諦めて、パーティーを楽しむべくもたれかかっていた壁から背を離した。

 そのとき、すぐ傍の窓を誰かが叩く音が聞こえた。

 不審に思い窓の外を見ると、またハイセンスな出で(以下略)がいた。

 何か伝えようとしているので、窓を開ける。

 「大神、ここはひとつ俺に任せておけ」

 「任せるって何をだ?」

 加山の意図が読めない大神は、冷え込む夜に上着も着ずに外に出ている友人の奇行には一切触れずにその真意を問い質した。

 「とぼけなくてもいい。レニさんと抜け出すチャンスを窺っていたんだろう?」

 「いぃっ!?何故それを?」

 「今から俺が、ここにいるみんなの注意を惹き付ける。その隙に楽屋を抜け出せ!いいな、大神!とうっ!!」

 そう言うと加山は、その場から瞬時に消えた。

 後に残されたのは、胸の内を暴かれ動転している大神だけだった。





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