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「お久しぶりです、米田さん。と、再会を喜ぶのもいいですがその前に米田さん、大事なことを忘れてやいませんか?」

 「へ?」

 「何でぇ、大事なことってのはよ?」

 大神は加山のいきなりの登場とその意味深な発言に思わず呆けてしまったのに対し、米田はすぐにその答えを加山に問うていた。

  (……優れた指揮官とはこういう人なのだ。突然の出来事にも動じず、的確な判断を下す。俺にも同じことができるのだろうか……?)

 大神が米田の指揮官としての技量の高さを再認識している傍らで、加山は米田の問いに答えを返していた。

 「花組にとって米田さんは父親のようなもの、自分たちの晴れ姿を見てもらいたいのは何も大神だけじゃありませんよ?……ということで、モギリは俺がやらせてもらいます」

 「なるほど、それもそうだな。じゃあ加山、モギリはお前に任せる。大神、早いとこ行ってやれよ」

 「了解しました!」

 「だからそういうシャチホコばった態度はやめろってんだ」

 そう言いながら米田は客席の方に戻って行った。<p>  まだまだ大きく見えるその背中から視線を外し、大神は加山の方を見る。

 「さて、改めて……久しぶりだなァ、大神ィ!」

 「あぁ、久しぶりだな。……加山、何があった?」

 「なんだなんだなんだァ〜?いきなり真剣な顔しちゃってぇ」

 加山が大神に何の連絡もなしに動く時、必ず何かが起きている。

 これまでの経験が大神にそう告げていた。

 なので大神は加山のノリに応じることなく、もう一度加山を問い詰めることにした。

 「忙しい身のお前だ、帝都に戻ってきたのも何かの任務なんだろう?」

 「……故人曰く、『治にいて乱を忘れず』だ。大神、米田司令の教えを忘れてはいないようだな。それでこそ帝国華撃団総司令だ。もっとも、帝国歌劇団支配人としてはまだまだ未熟なようだがな」

 「ハハ……返す言葉もないな。で、どうして戻ってきたんだ?」

 先ほどまでと違い、加山の目には真剣な色が浮かんでいた。

 そして加山は、帝都に戻ってきた理由を話し始めた。

 「……巴里華撃団と紐育華撃団からある任務を命ぜられてな、そのために帝都に帰って来たんだ」

 「その任務って何なんだ?」

 「今はまだお前が知る必要はない。そんなことより、今は早く彼女たちの舞台を見に行ってやれ。今日はト・ク・ベ・ツな日だからな!」

 大神は今の加山の最後の一言に、何らかの意味があると看破した。

 海軍士官学校主席の明晰な頭脳はその意味を解読しようと思考を始める。

 (巴里と紐育からの任務、今日は特別な日……祝い事?レニの誕生日か?)

 刹那、大神の脳裏に一つの答えが浮かぶ。

 (……そうか、クリスマスか!)

 月組の隊長に与えられた任務がサンタクロースになれだとは……

 いや、加山のことだ。自ら率先してこの任務とやらを発案したに違いない。しかし、帝国・紐育両華撃団月組の隊長がそんなことをしていてもよいのだろうかと疑問に感じた大神は、加山に月組は大丈夫なのか確認することにした。

 「……なるほど、そういうことか。でも、隊長のお前がこんなことをしていて月組は大丈夫なのか?」

 「わかったようだな、大神。なに、心配は無用だ。隊長が一週間以内くらいでどうにかなるような奴らじゃないさ」

 おどけた調子で返答した加山だったが、その目は依然真剣な色を示している。

 それを見た大神は、この場を加山に任せることにした。

 「頼もしい言葉だな。じゃあ加山、悪いけどモギリは任せるぞ!」

 「お〜ぅ!任せておけ、大神ィ!!」

 加山の返事を背中に聞きながら、大神は舞台袖へと急いだ。

 その背中を見つめながら、加山は一言こう呟いた。

「俺も久々に帝都花組の舞台を見たかったなァ……自分で引き受けたんだけど」

 加山の呟きは誰に聞かれるでもなく虚空に消えた。




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