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 今年も帝国歌劇団・花組のクリスマス公演は大盛況だ。

 開演時間の3時間前には既に帝劇の前には行列ができていた。

 その帝劇の支配人・大神一郎は、その行列の差し出すチケットを何とか捌ききったところだった。

 モギリとしての腕に、それなりの自負心を持っていた大神だったが、あまりの数の多さに少々手間取ってしまった。

   

 (随分ともたついてしまったからな。お客さんに不快な思いをさせてしまったかも知れないな……。俺もまだまだ未熟ということか)

 そう、大神一郎とはこういう男なのだ。

 普通の人なら一人では捌き切ることすら困難な量のチケットをもぎっておきながら、己の技量の未熟さを憂い、更なる精進を重ねようとする。

 こんな男だからこそ、帝劇のもう一つの顔・帝国華撃団総司令を任せられたのだろう。

『ジリリリリリリリリリリリリリリr………』

 おっと、開演のベルが鳴ったようだ。

 劇場に一瞬訪れる静寂。

 そして今、舞台の幕が上がり、夢の世界が始まった。

 早速聞こえてくる楽団の生演奏、そして花組の歌声。

 この日のために練習を重ねてきたその歌声は、まるで帝都全体に響いていくようだった。

 それを聞いた大神は、今すぐにでも舞台袖に走って、舞台の様子を、客席の反応を、何より彼女を見に行きたいと思った。

 しかし、開演時間に間に合わず遅れてしまった観客もいるだろうし、モギリたる大神はまだこの場を離れるわけにはいかない。

 そこで大神は、自分の代わりにモギリをしてくれそうなスタッフを探すことにした。

 (誰か代わりにモギリをやってくれそうな人は……)

 「代わるぜ、大神支配人。後は俺に任せて、さっさとあの娘たちの舞台を見に行ってやりな」

 「よ、米田支配人!!」

 「だから、支配人はおめぇだっつぅんだ」

 米田が今日ここに来ていたことを大神は知っていた。

 特別招待券も事前に渡していたし、何よりチケットをもぎる時に挨拶もしていただいていた。

 しかし、米田が突然そんなことを言ってくるとは思っていなかったので、大神は盛大に驚いてしまった。

 米田はそんな大神を見て盛大なため息をつきながら話し始めた。<p>

 「まったく……いいか、大神ィ?あの娘たちはな、当然舞台をお客さまに見ていただきたいと思っている。が、今日は特別な日だ。お前にも見てもらいてぇに決まってんだろ」

 「は、はぁ……」

 「ほら、わかったらさっさと行け。なに、いくら老いぼれでももぎるくらいは訳ねぇや」

 米田の言葉は大神にとって正直ありがたかった。

 しかし、お客様として招いた米田にモギリをさせるわけにはいかない。

 大神はその誘惑を振り切ることにした。

 「ですが支配人、お客様にモギリをさせるわけには……」

 「だから、俺はもう支配人じゃねぇ!もっとシャキっとしろ、大神ィ!!」

 『ジャラ〜ン!』

 突然ギターの音色が響き、二人の会話が止まる。

 「……お元気そうでなによりです、米田さん」

 「加山、戻ってたのか!」

 「おお、加山。久しぶりだな」

 大神、そして米田の視線の先には、ハイセンスな出で立ちの伊達男、加山雄一がいた。




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