―心の願う場所へ―



『幸せに・・・・生きて幸せに・・・・』
その言葉の意味を考えようとしたレニはふっと目を覚ました。
(今のは・・・・)
雨戸の隙間から洩れる光はまだ弱々しく、まだ小鳥さえも眠っている時間である事は容易に想像が出来た。
レニは使い始めたばかりのベッドの上に手を伸ばすとかろうじて判別できる時計の針を確認した。
4時15分。
(少し早いな)
帝劇でも早起きのレニの言葉を織姫が聞いたら、まだ真夜中だとでも言いだしそうな時間である。
春とは言え今朝はだいぶ冷え込んでいる様子で、冷たい空気にレニは時計を戻すと毛布をかけ直してベッドにもぐり込んだ。
もっとも眠ろうとしたわけではなく、今、夢の中で聞いた言葉の事を考え始めた。
あれはいったい、いつ、どこで聞いたのだろう。たしかに現実に誰かに言われたものだ。
昔、そうあの場所で・・・・・・・・・・白衣を着た男が・・・・・・・・
レニの胸に急に重苦しいものが広がり、息苦しい様な感覚に襲われる、ベッドの上に体を起こすと軽く頭を振る。
側にあった服を乱暴につかむとそのままベッドから降りて部屋を足早に出る。
地下への階段を一気に降りるとパジャマを脱ぎすてそのままプールへ飛び込んだ。
帝劇のプールは一年中入れる様にはなっているが24時間は入れるように温度管理がなされているわけではない。
レニが飛び込んだ今は川に飛び込むのとさほど変わらない水温だった。
4〜5往復もしただろうかようやくプールから上がったレニの体はすっかり冷え切っていた。
唇は紫色になり、ガタガタと体がふるえ、歯がガチガチと鳴る音が誰もいないプールに響いた。
そのままレニはお風呂場へと行くと、シャワーのコックをめいっぱいに開いた。
熱いお湯が勢いよく出てたちまちあたりは白い湯気でいっぱいになり、レニの体も徐々にあたたかさを取り戻していった。
唇にもほんらいの色が戻るとレニは落ち着いたようにふうっと大きく息をはく。
と、同時にお風呂場の入口が勢いよく開く。
「おっ!レニも朝風呂か?」
その明るい声に振り向くと思った通りの人物がそこに立っていた。
「カンナ・・・」
カンナはレニを見て次に湯船を見ると「なんだぁ、お湯いれようぜ、お湯」そう言いながら湯船へと近づくと勢いよくお湯を出した。
「シャワーじゃ 風呂入った!って気がしねえだろ」
そう言って笑うカンナの顔を見ていたレニは、今自分のいる場所を確認出来たように思えてほっとした。
しばらくすると湯船にお湯がたまりカンナが勢いよく飛びこむ。
「うっひょ〜、朝風呂最高だな、おい、レニも入れよ気持ちいいぜ」
湯船からカンナがおいでおいでと手招きするが、レニはもう体も充分に温まったしもう出ようかと思案顔でいると、それをさっしたのか
カンナが湯船から出てレニへ近づくと小柄なレニをひょいと持ち上げる。
「うわっ、カンナなにするの、降ろしてよ」
しかし、カンナはレニの言葉に、いいから、いいからと言うとレニを軽々と湯船に放り込むと自分もその後から飛び込んだ。
「うっぷっ、カンナひどいよ」
「あっはっはっ わりぃわりぃ、でもよこの方が気持ちいいだろ?」
たしかにカンナの言う通りかもしれない、お湯につかっていると心まであたたかくなる気がしてくる。
「うん、そうだね。気持ちいい」
カンナはそうだろうと言いたげにレニの頭をポンとたたいた。
「大丈夫。隊長がいなくてさびしいけどよ、花組のみんながいるからよ」
「えっ?」
思わずカンナの顔を見るレニだったが、カンナはそれ以上は何も言わず、レニも何も言わなかった。
お風呂から出ると、プールに放り出したいつもの青い服がきちんと脱衣所にたたんで置いてあった。
(カンナはたまたまここに来たんじゃないんだね、ボクのためなんだね。ありがとう)


部屋に戻ったレニは今朝の夢の事をもう一度考えてみた。
ここは帝劇であり、花組の仲間もいる、ドイツのあの場所ではないのだと時々自分で確認して、心を落ち着かせる必要はあったが
又、冷たいプールに飛び込みたくなったりはしなかった。
あの言葉はたしか燃え盛る研究所の中で聞いたのだ。
賢人機関による捜査で、もう逃げられないと感じた誰かが火を付けた。
シュトックハウゼン博士だったかもしれないし、あの時いた他の子供かもしれなかったが、それははっきりとはわからない。
彼だけがボクを時々 レニ と呼んでいたのだ。だからあの男の事はよく覚えている。
普段の実験の時はNoで呼んでいたけれど二人だけの時などにはレニと呼びかけた。
だから・・・・・だからあの時・・・・・